垂れた縄、解けた紐
事と道を知らせずに

母がいる遠い空がある
それが誰とも知らずに笑う顔

ゆりかごを取り巻く言霊
知らぬ間に歌えた歌があった

線路沿い、遠のく面影
見送る時あなたは歌っていた

「教えて」「どんなふうに」
「ほら見て」「こんなふうに」
あなたが知らせる新しいこと
そんな時に
わたしが見ててあげよう

いくつもの他愛ない約束
覚えてる、ひとことひとこと

いつまでも解けない束縛
それがなぜとも知らずに笑う顔

駆けたままサドルに飛び乗る
去年よりもずっと早く

風を切ってあなたと連れ立つ
坂から見晴らす月日よ

「教えて」「どんなふうに」
「ほら見て」「こんなふうに」
あなたが知らせる新しいこと
そんな時に
わたしが見ててあげよう

怖い夢を見たの
たくさん人が来たのね
おやすみ、ひととき
わたしのそばで

怖いことはもう起こらない
そんなふりを
してみよう
こんなときには

あなたが感じていた色々なこと
そんなときに
わたしに何が出来たろう
どんなふうに

ねえ見て、この眺めを
あのこが見つけた素晴らしいこと
こんな時に
あなたが見ていてくれたら

2013.12.13
シェ・ドゥーブルにて

ララバイ

2013.12.13
シェ・ドゥーブルにて

振子時計 (live 2013)

Chloe Tuning#1

improvisation#1

summer sun

精一杯　日々を暮らしていても届かない
子供のころ　あなたと触れた高い空
することのなにひとつない　許された川の流れ

今も雑踏の奥、ちかちか不意に光っている
懐かしさだけが残されたまま　
はためいている　川は流れている

遠くなっていく
また遠くなっていく
いなくなっていくあの日々とこの日々を
繋ぎ止めていた人たちも

2024年8月5日夜
娘が嘔吐
39度の高熱　明日は仕事を休まないと
8月6日    広島に黒い雨が降った
8日　まだ熱は下がらない
院内のテレビ　ガザ地区の報道
「13番の呼び出しです」「あ…僕らだね」
15日　ようやく登園許可が出た
その日の昼休み、この街の空に来年
万博カラーの車が颯爽と飛ぶのだと聞いた、
夕食のときに話す「へー」
16日、今朝　ビッケのバックシートで
きみは　僕に何か一生懸命伝えようとしていたけれど

あのとき　なんて言っていたんだろう

じりじりと記憶を溶かす夏のから騒ぎ
坂の上の雲ひとつない絵空色の青が
地獄を隠すようにこの街も覆っている

遠ざかってゆき
もう止まらなくなる
近づいていくあの足音に塞ぐばかりの
僕らの街の表通りでも

何か間違ったことが行われている
わかっている
けれど
どうしようもなく
僕たちは疲れてしまう
着信、暗闇にホーム画面が光る
きょうは9月24日
もうすぐ秋が来る

タイムラインを流れていく世界を
スワイプしてはスワイプをし
スタンプを押しまたスワイプをする
スワイプスワイプスタンプスワイプ
明日も、明日も、明日も、明日も
流れる、流れる、流れる
何もできない

精一杯　目を凝らしてみたよ
わからない
子供のころ　見えていたはずの世界が
死ぬことを恐ろしく思うその気持ちが

遠ざかってゆき
それも受け入れていく
いなくなってしまうね、
あの人も僕も君も

「まぶしい川が光っているね」

summer sun

ゴースト

"日々の名残り"

この部屋によく似た
場所のことを思い出していた
風に吹かれはためくリネンの
向こう側の暮らし

軒下に影を見つけ
身をひそめて息づいている
忘れられて　待ちわびいつか
眠りこけて夕日

吹き溜まりに雨のバケツ
時が沈み　浮かぶ記憶
ほら、ごらん　駆け出していく
あれはわたしのむかし

風邪を引いたときのこと
もう無理だって泣いてたこと
そのままをこらえきれず
差しのべた手に温み

穏やかな日々の中に
残った日々を数えている
もう何も戻せないか
どんな季節を手繰ってみても

駅を降りてすぐの店
バスに乗り換え　あなたの街へ
埋め合わせの手土産さげて
いまさら何を話そう

その部屋にいつか居た
ひとのことを思い出していた
風が吹いて　人の気配
吹き消し香る煙

穏やかな日々の中で
あなたのことを忘れていく
もうじきに戻っていく
わたしは何を残せただろう

あした朝早く起きれたら
出かけてみよう　見知らぬ街へ
わたしたちが暮らす姿を
浮かべて川に流そう

浜谷俊輔 (Hamatani Shunsuke)

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