日記帳

Impro No input

「それでも、私は今日もわらび餅を食べている。」
for fixed media
composed by Kaisei Bekki

July 29th, 2024

（概要欄の最終更新: 2024年8月7日）

それでも、私は今日もわらび餅を食べている。

「見える人、見えない人」（Sighted person, blind person）
for Flute and Piano
composed by  Kaisei Bekki

[Recording]
April 16th, 2024
愛知県立芸術大学  室内楽ホール

[Player]
Mari Nakamura (Flute)
Kaisei Bekki (Piano)

[Photographer & Recorder]
Koichi Hirata

★動画版はこちら → https://youtu.be/IypCMsJMzKw?si=GnHm3IoGD3vCjZZL

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[Note]
「楽譜が “見えない” って、不便なようで、実はとても “自由” なのではないか?」 

2023年度「作曲理論IIIB」の、陶磁専攻とのコラボ成果発表としての本作は、谷崎潤一郎が1933年に発表した小説『春琴抄』のストーリーから着想を展開している。 
「4人ほどでグループを作り、同じ1冊の本をベースに制作する」という授業の趣旨は、私にとって試練だった。なぜなら、これまでの私はどちらかというと、規則や体系をアテにしながら作曲するほうがメインで、描写したり文学的解釈を伴ったりする方向性で構築していくことが苦手だったからだ。 
「何かを表現する」という目的を達成するために音楽という手段を用いているというより、そもそも自分の中に「好きな聴覚」が存在している、という思想が強かった。心のどこかに「音楽はわき役なんかじゃない」というプライドがあったし、直感やヒラメキを意味する「インスピレーション」という単語にも抵抗を感じた。 

今回、半強制的に「感覚的」な創作メソッドを選ばざるをえない状況で、私がとった行動は非常にシンプル。 

「楽譜を書かない。」 

そうすれば、事前に何か論理的な情報を処理した上での音選びはできなくなる。 
(...とはいえ、脳科学の視点では、即興演奏をするピアノ奏者の過去の記憶に基づいた、右脳の潜在意識における無数の小さな決断が絶え間なく起こっている、という結論になりそうだが) 
しかし、それだけではさすがに作品の再現性が欠けてしまうので、フルートはきっちり記譜をして、タイトル通り見える人(フルート)と見えない人(ピアノ)の「コントラスト」を体現した。 

その際の外部の素材として、今回は「視覚に頼らなくても分かる」というテーマに関連する2つの引用をしている。 
まず、聴覚だけで文字を伝える「モールス信号」。これをリズムとした。ジェットホイッスルには、単語を区切る役割を持たせている。次に、数字だけで色を伝える「16進数カラーコード」。これを12進数へと記数法を変換したものをピッチとした。 

また、今回はシアターピースとしての要素を含んでいる。視覚を失ったピアノ奏者が通常の演奏を放棄し、しまいに顔を失い、音を出せなくなる。そしてフルート奏者も楽譜を投げ捨て、2人とも設計図を「見ない」人になってしまう。 

さて、ここで個人的な「仮説」を書きたい。

今回のフルートを、作者本人は「旋律」だとは思っていない。前もって決められた通りに、文字の情報と色の情報を凡々と入力する機械のようなものだ。楽譜には詳しい強弱を書いていないので、もしAIが演奏するなら極めてプレーンな仕上がりになるだろう。 
しかし、そうはならない。ほとんどの人間は自由を求めるからだ。振動数(ピッチ)を一定にして会話する人なんていない。ロボットとは違う。 

作曲する際、五線紙が使えるというのは便利なことだ。しかし、五線紙「使用可」という自由によって、五線紙を用いるような様式以外の音楽を作りにくくなるという不自由が発生するのだ。 
もしかしたら...、視覚を獲得しているということでも、同じような論理が成り立つかもしれない。見える自由によって、見えている対象物に束縛されるという不自由が存在していて、しかもそれに大半の人は気づいていない。
世界中の全ての視覚障がい者が、例外なく「見えないのは不自由だ」と思っているだろうか? 視覚を閉ざすことによって、視覚と共存できない「別種の自由」の存在に気づく可能性はないだろうか?
健常な視覚を持っている側からみれば考えられない、「見える」という前提を失ってしまったとき。そこには新たな思考があり、生きる上での部分的な事象の外へ飛び出していける機会なのかもしれない。 
...なんて考えている私は、ずいぶんと異常な人格なんだろうか。 

（概要欄の最終更新: 2024年8月13日）

見える人、見えない人

Takuto Muromoto
Tokara Evoke (2020/23) - for flute, viola and violoncello

Shino Saito, flute
Fumiko Kai, viola
Mano Shimojima, violoncello

live recording from Tokyo, August 2023

Tokara Evoke (2020/23) excerpt

Takuto Muromoto
Tokara Evoke Ⅲ (2021) - for 8 players

Formation: flute, clarinet, saxophone, percussion, piano, violin, violoncello, contrabass 

Yasuaki Itakura (cond), Tokyo Philharmonic Orchestra
Award: 90th Music Competition of Japan, 3rd prize

Tokara Evoke Ⅲ (2021) excerpt

Takuto Muromoto
Rocking the Hiiden kehto (2024) - for flute and soprano saxophone

28 July 2024, Kyoto concert hall, Japan 

Hana Yamamoto, flute
Koji Yamamoto, soprano saxophone

Rocking the Hiiden kehto (2024) - flute and soprano saxophone

Romance (excerpt)

Flute : Dōgen Kinowaki
Cello : Takui Matsumoto

日記帳

Takumi Uchida

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