今日は休日なので、通用口を開けてキャンパスを出る。
ドアを開けた瞬間、熱気に包まれ蝉の声が降り注いでくる。
右手の駐輪場へ向かう。
ダイヤルを回してチェーンロックを外し、サドルの下に掛け直す。
ヘルメットをかぶり、あごの下でバックルをカチッとはめる。
自転車のハンドルを握り、スタンドを上げて、広いスペースまで押して歩く。
サドルにまたがり門の手前まで漕ぐと、横断歩道がある。
左右の安全を確認し、ペダルを漕ぎ進める。
今日は風が強い。 

風が耳元を擦って、ボォーっと鳴っている。
踏切待ち。
スピーカーの真ん前で停止すると、警報音が「カンカンカン」と耳をつんざくので、できるだけスピーカーの真下に潜り込む。
私の左側で、浴衣を着た二人組が会話している。
「あつーい」「風が涼しいね」
「ここの踏切長いよね」と言っていた気がする。
右からも、左からも電車が来る。
やっと踏切が開いて、次の踏切待ち。
古い特急の車両は、「ガタンゴトン」も古くて軋んだ音がする。
二つ目の踏切が開いて漕ぎ出すと、少し下り坂になっている。
勢い余って交差点でぶつからないように、慎重に進む。
緑の生い茂る桜並木がしばらく続く。
かつて商店街であったであろう古びた街並みも相まって、都会の喧騒を一瞬忘れられる。
通学路で一番お気に入りの道である。
樹々の上の方で蝉が鳴いている。
たまに鳥の声も聞こえる。
サッカーボールが道に落ちている。
歩道から車道へ出てきた持ち主の男の子と目が合い、気まずそうに対岸の歩道へボールを蹴る。
私はまたゆっくり漕ぎ出す。

夏至／5.8km

ここはどこでしょう
にぎやかですね
帰るというのに

少しずつですが、落ち着いてきます
風と足音だけになっていきます

からの、クライマックス
⚠️セミ大音量注意⚠️

SuNa_YaSe／1.2km

知らないまちの盆踊り
祭りの音は遠ざかる
静かに響くスズムシ
暗闇は知らない道へ私を吸いこむ
道案内は手の中に
負けじと明るく照らしてみるが
暗闇は戦わない
知らないまちをただ包みこむ
私もただ溶けこんでみる

明るいまち
知っているまち
しかし私は溶けこまないよう
まっすぐ・直角・またまっすぐに歩いていくだけ

B6C4／1.3km

久々に部活に顔を出しにきたのに、部室は閉まってるし誰もいないので、仕方なく帰ることにする。
寂しい。
上野公園の小道でふと思い出して、これを録り始めてみた。
蝉の声。
うしろからキャリーケースをゴロゴロ引っ張って歩くお姉さん。
私を私を追い越していく。
子どもが3人、何やら草むらの中をスマホのライトで照らして探したりはしゃいだりしている。
父親らしき人が、はしゃぐ子どもを追いかけ、母親らしき人が草むらを照らしている。
みんな日本語ではない言語で何か喋っている。
2名でお待ちのお客さまどうぞー、とカフェから聞こえる。
今日の月は、例えるなら何の形だろう。
かまぼこにしては、片側が丸すぎる。
ちょっと丸いかまぼこということで。
西洋美術館は金曜だから20時まで空いてるのかな。
文化会館の天井の照明は星みたいに無数に並んでいる。
急にCMが流れてきた、と思って視線を左にやると、男性がイヤホンマイクでスマホに向かって、すごいハキハキ喋ってた。
こちらナントカの何番ですどうぞ、みたいなセリフ。
足音は、近づいてきて、遠ざかる。
立体駐車場の出口のサイレンが、ピロンピロンピロンピロンとずっと鳴っている。
改札でSuicaをタッチする。
コンビニに入る。
小さいカフェオレを買う。
コンビニを出て、下りで一番初めに発車する勝田行きに乗ろうと階段を降りる。
人が多すぎてたぶん乗れないな、と悟って、階段の半分で引き返す。
次の土浦行きにしよう、と思ってホームまで降りる。
たぶんこれも人が多すぎる。
エレベーターで一旦上に戻る。
30分以上待つけど、急いでる訳じゃないし、と思って取手行きに乗ることにする。
14号車までひたすら歩く。
できるだけ人と接触しないで済むように、端の3人掛けの席を陣取る。
着席、リュックを置く。
録音停止。

ウェノ／550m

校舎を出て正門に向かう。
いつもより早く退勤できて心が弾む。
今まで気付かなかった蝉の声が聞こえる。
夏の訪れを感じる。

正門から坂道を下る。
地域の人とすれ違い会釈をする。
筋肉痛の足が痛くて歩きづらい。

商店街の道に出る。
車が2台通るのを待ってから横断歩道を渡る。
また蝉の声が聞こえる。

国道に出る。
運悪く直前で信号が変わる。
鳥のさえずりが聞こえる。
車を運転している人と目が合う。気まずい。

横断歩道を渡り、国道沿いの歩道を通って家に向かう。
そういえば今日は華金だと思い出す。
コンビニかスーパーに寄ってご褒美を買うか迷う。
少し足取りが軽くなる。

ヘルメットを被って自転車に乗るおじいちゃんが後ろから私を抜いていく。
前からは自転車に乗ったおばあちゃんがやってくる。

やっぱり面倒な気持ちが勝って、どこにも寄らずに家にあるもので済ませようと決める。

郵便受けを確認する。
階段を登りながら鍵を取り出す。
なんでこんなにも虫が多いのか呆れる。
鍵を開けて家に入る。
もわっとした空気に触れる。暑い。
ただいま。

わとたん／700m

大人になるにつれて　あれほど広かった世界がちっぽけに見えてくる
大人になるにつれて　新しい体験が減ってくる　成長と老いは紙一重に感じる

小学時代の音楽の恩師に十数年ぶりに会った
先生の頃はたいへん活発で若かった
対面した彼女は覇気がなく老夫婦になっていた
活力が目に見えて薄れていたことに衝撃を受けた

セミは地中で数年育つが　地表で鳴き生きるのは一生のほんの僅かである
ヒトの一生はもっと長いが　活力に富んでいられるのはどれほどの間だろうか

抜け殻を拾った
この先の人生をしっかり活きていきたい

ガルート／2.5km

．　　出　　
　　軸　力　
　転　　　回
　回　　　転
　　力　軸　
　　　出　　

　　　　　🔑🔑🔑
🔑🔑🔑🔑　　🔑
　🔑　　🔑🔑🔑

匿名希望／13.1km

藝祭帰りの足取りは弱く、前傾姿勢になりすぎて倒れないよう勝手に前に出る脚で、光のない山の夜道を歩いていた。
奥に灯りが見え、それに向かって行くと次に玄関が見え、家の敷地に入ったところでやっとドアノブが見える。
肩掛け鞄の紐が食い込んだ方の腕は動かず、反対の腕で扉を開ける。山に光が漏れる。

白魚／芸大→御徒町:1.6km 御徒町→自宅最寄駅:49.8km 最寄駅→自宅:2.4km

歯医者の帰り。
まっすぐまっすぐ商店街を歩く。
道幅が狭くて人が多い。

奥歯に結構深い虫歯があって、削った。
定期的に歯医者に通ってたはずなのに、なぜ今まで行った歯医者は、ここまで大きくなるまで気づいてくれなかったんだろう。
レントゲンを撮らないと見えないところにできていたのだけど、それにしてもねぇ。
再来週に型取りをする。新しい歯もどきが出来上がるまで、しばらくはりぼてが詰まっている。
簡単に取れたりしないかな、ちょっと心配。

奥の歯／450m

覚えてない、ごめんなさい

最後に一言、「あつい」

トビ／1kmちょっと

帰り道の音と記憶の記録集

帰り道の録音と思い出を綴った文章を、いろいろな人たちから集めました。
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だれかの帰り道を想像するためのメディアとして、音という客観的な記録と、文章という主観的な記録について考えています。

Collection of Sounds and Memories of the Way Home

We have collected recordings and episodes of various way home.
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We are thinking about the objective recording of sound and the subjective recording of text as media for imagining different ways home.

帰り道の音と記憶

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