タイトル：
谷川みなみ/崩壊のセーデキム
Minami Tanigawa / Collapse of 16

編成：
Flute, Clarinet, Alto Saxophone, Bassoon, Percussion

初演：
2018.10.3.

曲目解説：
　私たちは音楽を耳にするとき、しばしば拍子を数えることでその音楽を感じ取ろうとする。西洋音楽における要素のひとつとされている、リズムの周期によって形作られた拍子は、時としてその音楽の性質を確立させ、音楽そのものを支配し得るほどに重要な役割を果たしている。
　「セーデキム」とは、ラテン語で「16」を意味している。管楽器によるユニゾンから始まり、旋律を奏でる音符と旋律同士を繋ぐ休符は、演奏者達の中で絶え間なく続く16分音符の流れによって演奏されている。16ビートを彷彿とさせるハイハットシンバルが合流することでその流れは顕著に現れ、変化することなく続いていくセーデキムの音楽は、私たちから拍子という重要な要素を喪失させ、これまで感じ取ってきたこの音楽を次第に崩壊させていくのである。

崩壊のセーデキム／谷川みなみ(2018)

タイトル：
谷川みなみ / アルファベッタ〜3人のパーカッショニストのための〜
M.Tanigawa / “AlphaBetta”~for 3 percussionists~

曲目解説：
　文字を並べていくように音符を並べ、ひとつの瞬間的なフレーズを１文節と捉え、文章を羅列することによってリズミカル（＝律動的、周期的）な音楽が形成されていく。思いついた言葉を矢継ぎ早に書き殴ったような、あるいはそれぞれの単語を噛み砕いて慎重に次の言葉を選ぶような、瞬間ごとに文節の持つキャラクターが変化していく不思議な時間が流れていく。こうして私が文章を打っているように、三人の打楽器奏者が音を打ち込んでいく。
　作品全体の構成は、ドラム系のリズムを基軸とした「アルファ」とマリンバを中心にした「ベータ」の二つに分類されている。「アルファ」では瞬間的な響きとその余韻を追求し、「ベータ」では長い旋律やフレーズを音楽の流れに織り込んでいくという、双方において対称的な作曲技法が取られている。細かく区切られた文節が引き伸ばされ、あるいは縮小され、そして終盤では複数の言葉が整理されないまま複雑に入り混じっていく。

アルファベッタ／谷川みなみ(2017)

arrangement : Minami Tanigawa(1997-)

~Parts~
Euphonium 1,2,3,4 and 5
Tuba 1,2 and 3
Piano

Le Tombeau de Couperin (for Low Brass Family)(2018)

還元される海碧 (2017)/ 谷川みなみ

『秋。てい(ゆ)く、』

明けていく
花の香り
開けてみる
風に濡れた

秋て、ゆく 秋、てゆく

「どこへ行(ゆ)く?」
訊ねても 返ってこない
声

届かない 帰らない...

待ち侘びて 独り
水面に影 にじむ
また会うはどれくらい?
「もう少し」と言ったの?
言ったと 覚えてる
思い出す

暗闇を独り
水面見つめても
返らない
帰ってこない
届かない 声

秋て、ゆく
秋、てゆく

覚めた夢も冷えた現(うつつ)も
いまは秋

秋、てゆく
秋て、ゆく
秋、て、居る

飽きて

こんぴっぴ2018

秋。てい（ゆ）く、 〜ソプラノとピアノのための叙情詩的歌曲〜

〔note〕
　家族とレストランに行ったとき、私がいつもワクワクするのがメニュー選びだった。メニューを開いて、はじめて来たお店ならそこのおすすめを、何度も通っているお店なら自分のお気に入りをまずはチェックする。美味しそうな写真がたくさん並んでいれば、何を注文しようか迷ってしまう。悩みに悩んだ挙句、結局は両方頼んでしまって、お皿を目の前にして食べ切れるかどうか早々に心配する。だというのに、「食後のデザートだけは別腹だから……」と欲張って追加注文したら、案の定食べ切れなかったり。
　冒頭の鋭いスタッカートがコショウをふりかけた音で、バリトンサクソフォンを起点に広がるハーモニーが空気に乗せられて漂う香りなら、まもなく登場する旋律は料理を口にした瞬間の喜びだろうか。それはスパゲッティなのか、もしくはグラタンなのか、はたまたコーンスープなのか、それとも──。
　“pour cinq gloutonne（五人の食いしん坊たちによる）”身体温まるひとときを、どうぞお楽しみください。

ア・ラ・ラ・クインテット〜pour cing gloutonne〜(2017)／谷川みなみ

ぷら〜んねっと(2019)／谷川みなみ

2019.7.1(mon.)
愛知県立芸術大学室内楽ホール
山本門下試演会 vol.9

〜Instruments〜
Violin
Piano

〜Program Note〜
　（アリストテレスの三段論法における命題ほど、ひとつのモティーフを厳格に扱いたいわけではないけれど……）、一つの作品を三つのセクションに区切ったとき、ヴァイオリンとピアノが展開するモティーフの関係性がセクションの移行と同時に逆転するような事象は起こりうるのだろうか。三つのセクションをA, BおよびCとしたとき、AとBのセクションではいずれもピアノが先行することで音楽の背景を形作っていて、そこにヴァイオリンが加わることで、形成されていた背景にモティーフが付加されていく。しかしCのセクションでは背景が消滅し、モティーフが剥き出しになったことで、そのモティーフがもたらす音楽の印象に変化が生じるのである。それはヴァイオリンが意図的なモティーフの変化を表現したというよりも、ピアノが形成していた背景によって、モティーフが視認できない変化を成したからではないだろうか。
　“Not Tomorrow, Not Yesterday, But Today”というロックバンドのジャケット名に出てきそうなフレーズも、三つの文節から成り立っている文章である。音楽における三部形式もそうだが、朝・昼・夜とかI-my-meとか、周りには一つの事象や事柄を三つの要素で並べて表現するケースがあまりに多すぎて、その安定しすぎた語呂や響きに時折不安を覚えるのである。

　(I do not exactly want to treat one motif strictly as the proposition in Aristotle's three-stage theory of the syllogism, but ...), when one work is divided into three sections, is it possible that an event in which the relationship between motifs (developed by the violin and the piano) is simultaneously reversed within the transitions of the section? 
　In the three sections A, B and C, the piano has a leading role in the background music of sections A and B, and the violin is then added to the background to create a motif. However, in section C, the background disappears and the motif is exposed, which changes the impression of the music brought by the motif. It may be that the violin has made imperceptible changes due to the background that the piano has established, rather than the violin expressing intentional changes in the motif.
　The phrase “Not Tomorrow, Not Yesterday, But Today” - which is a sentence consisting of three clauses - appears on the CD jacket of a rock band. As with the musical three-part form, common is expressing one event or thing in three elements. I sometimes feel uneasy about the words and sounds that are too stable, for example: in the morning-daytime-night; I-my-me, among many others.

Not Tomorrow, Not Yesterday, But Today(2019) / Minami Tanigawa

初演：
2019.11.2 (sat.)
愛知県立芸術大学 芸術祭
Solo de Compose 2019〜ソロコム〜

演奏：
上田聡穂

秋過ぎて、冬／谷川みなみ(2019)

ヒマワリの領域　〜Area of Sunflower
　曲名における「ヒマワリ」とは、オランダの画家・ゴッホが手掛けた代表作のひとつ「ひまわり」のことを指している。晩年に描かれた作品群「ひまわり」はゴッホの数多の絵画でも特に有名であるが、あれらの作品が世に残されるまでには彼の生涯という長い年月と、それに伴う作風の変化が背景にあることは間違いないだろう——ちなみに彼が精神的に思い詰めるようになっていくのは、「ひまわり」の制作を終えて間もない時期である。
　多作かつ写実的で知られる彼の作風は、印象派からはじまり、やがてロマン派やバロック主義的な傾向へと変わっていく。それは西洋音楽における時代の変化とは逆行しており、その変化によって生み出されたのが「ひまわり」のような色彩豊かな絵画たちだった。私は、「ひまわり」を含め様々な絵画を並べたような、時代あるいは作風がセクション毎に入り混じった状態のことを「領域」と名付けることにした。油絵のように重厚な和音であったり、現代の音楽とは時代錯誤であるようなポスト印象派的な旋律であったり、あるいは明るく色鮮やかな、まさしく「ひまわり」のような輝きを放った響きを細やかに演出できるよう作曲を試みた。

初演：
2018年12月
演奏：
愛知県立芸術大学サクソフォン専攻

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