作曲：菅野よう子（『信長の野望　武将風雲録』より、「足利・今川内政」『信長の野望　天翔記』より、「湖上の弓月」）
編曲：桃子腦TC

概要：
　信長の野望シリーズと言えば、80年代にコーエー（現コーエーテクモ）が同名PCゲームを発売して以来、数多の歴史シミュレーションゲームの中でもいわば「戦略型」というジャンルの第一線をリードし続けるシリーズとして名高いものですが、このゲームのBGMがまた大変雅で、壮大で、良いものなのです。特に、古いシリーズでは作曲家菅野よう子氏を作曲に起用し、そのことがこのシリーズのカルト的人気の一端を担っています。
　まずは、このゲームにまつわる思い出話から始めなければなりません。私が幼い時、転校先の小学校になじめず、放課後遊ぶ友達もほとんどいない時期、たまたま押し入れにあったメガドライブを見つけ、同時に野望シリーズ「武将風雲録」を引っ張り出したことが、事の発端であります。幼いころから、父親の影響で歴史好きであった私は、多くの小中学生歴オタがそうであるのと同様に、戦国時代に大ハマりしておりました。伊達政宗や島津義弘が好きで、信長や秀吉のような中央のドタバタ自体にはあまり興味のなかったもので、必然的に当作でも「端っこ」からやるわけです。
　伊達や島津はいい武将が最初から多く仕えており、序盤から飛ばせるという意味で案外難易度が低いのです。先述の好みも加えてすぐに「ガチの弱小からやる」ようになります。飛騨姉小路、越中神保、里見、加賀畠山あたりは、周りが強豪揃いであり、普通にやっていると序盤で潰されるか、うまくいっても織田や上杉の分厚い武将層に耐えかねて瓦解する、これを何回もやります。
　足利家は、悲しいかな、この弱小の部類に入ります。三好や織田には正面からかかっていっても、落とせない。しかし、桃子少年は何度も足利家でプレイすることになるのです。まず、BGMがいいと思えた。武将風雲録はどの大名のもそこの雰囲気を上手に再現しており、いいのですが、特に足利はすぐに一番のお気に入りになりました。リードはおそらく琴のシミュレート、雅でロマンティックで、しかし寂しげな…
　菊幢丸（きくどうまる）とは、足利13代将軍足利義輝の幼名です。足利家には珍しい武闘派で、塚原卜伝に剣を教わったという俗説もある「剣豪将軍」は、応仁の乱以降失墜し続けた幕府の威信を取り戻そうと奔走しますが、最後は三好三人衆率いる部隊に御所を襲撃され、討ち死にします。
　コーエーの製作陣は彼に何やら思い入れがあるようで、彼の「魅力」のゲージは、作中トップの100とされています。彼の辿った悲惨な運命を思いながら「足利・今川内政」とだけ題された音楽を聴いてみていただきたい。
　
　さて、この曲では「風雲録」の足利と「天翔記」の足利をカヴァーしているわけですが、ブリッジの部分は私が作り、また音色はGaragebandに載っているものをアレンジしながら使いました。原曲の持つ、非打楽器的な、和音主体のリズム感、特にサブのパートを崩さないようにしながら、なるべくシンプルな音数で再現しました。
　また、耳コピで聞き取ったもののほかに、琴やコントラバスの音を使って勝手にもう一つの旋律も載せています。琴は特に、打楽器のないこの曲においては、リズムを作る上でも重要な役割を果たします。ヨナ抜き音階にこだわらず、「MDが8トラックまで鳴らせたら菅野よう子が入れたであろう」音を推測し、装飾的にちりばめています。また、進行も少しいじっていますね。

　足利義輝の辞世の句が残っています。

　「さみだれは　つゆかなみだか　ほととぎす　わがなをあげよ　くものうえまで」

　言葉選びが派手すぎる、等の理由から、句としての評価は低いようです。しかし、最期も側近十数人とともに数万の三好勢を相手にするような、武勇の将軍がポロリとこぼした悲壮、孤独、無念の句であると思うと、この句も案外味わい深いものです。

武将風雲録BGM＜https://www.youtube.com/watch?v=LVdVwg4N8Uo&t=1339s＞
天翔記BGM＜https://www.youtube.com/watch?v=ouYMHsLBP94＞