赤池行きの電車を何本も見送りながらベンチで話した。
のぞき込むようにしないと見られない、僕の好きな君の目。
傘を地べたに置くようないい加減さにその長い睫毛は似合わない。
そのくせシャツの肩を濡らす雨の名前をちゃんと知っていたりして。

今はもうえらく遠い気持ちだよ。
触れたとしても滲んだりしない。

声も小さければ話すこともとっくになくなっていた2人の帰りを促すように、
混み始めたホームのにおいはすっかり変わった。

指切りするほどの約束を
これからできないとしても良いから。

遠い気持ち

雨が続いたわけでもないのに
面倒くさがりがたたってここに来た。
蛍光灯がチカチカ点滅している。
誰の話し声もちゃんと聞こえない。

古い漫画を何となく手に取ると、
頁の端に落書きを見つけた。
気付けば通りはトラックばかりが走っている。週末なのに静かな夜が続く。

ラジオから聞こえたラブソングをあいまいに口ずさむ。

夜通し歩いてもたどり着けない遠くの寝息を想像してみる。
うすいまぶたの裏側に何を映しているのか。


いつか観た映画ならここで自動ドアが開いて
顔を上げると…

コインランドリー

どんなズルをしてもあの時触れることに怖気付いた僕の順番は二度とやってこない。
君が光る度にいつまで間に合わせの少しも笑えない冗談で冷やかしたら良いのだろう。

息遣いの分かるくらいにそばに居られる日々もそれは風に膨らんだカーテンを掴む時のようで。

どんな言い方でもあの時に欲しかった言葉をあげることはできないと分かっているのに。

タイムマシン

向かいのアパートから部屋着、突っかけで電話を片手に飛び出してきた彼女。
同じように欠けた月は見えたかな。

夜道を川沿いに歩くと、半分だけ柔らかく照らされて。
昨日までは雨のせいで濁っていた流れも天の川みたいに光っている。

影を見れば分かるくらい、ひどい猫背をからかう友達も最近は忙しくて顔も見ない。
便りのひとつもお互いなく。

伸びてしまった髪を三つ編みにしてみせては
笑っていた頃の無邪気さを装っても、出来ることは少ないんだ。

夜の口笛をたしなめるような
妙に迷信深いところがあったな。
何故だかしつこく思い出されたりする。

回想

電車の窓には雨垂れの星座が灯ったり、曇ったり。
うつらうつらしている横顔を映しているのは僕の目だけ。

目一杯甘いチューインガム、あっという間に味がしなくなる。
本当に忘れていたんだ。
箱の滲むような葡萄の絵も。

細く長い首のせいで風邪をひかないように。
マフラーをあげよう、君に。
頬のピンクに合うアイボリーの。

今年もあと少しで終わる。
ついたことも覚えていないような、
小さな嘘で喜ばせた日々をまた一山積もらせて。

今年もあと少しで

春の日差しに晒されるストーブ。
のぼりをいたずらに裂く子供。
手も握れないまま四ツ辻で別れる二人。
バスの窓から見たよ。

花弁の数を知りながらする恋占い。
靴底の端ばかり減らすものの正体。
ベランダでだけ歌う彼女のハミング。
暴かないから良いよ。


君に話したいこと、見つけては手帖に書き留めておくけれど。
次はいつ会えるかな。

「また近いうちに」

電車が踏切を揺らして通る。
手持ち無沙汰たちがおしゃべりに精を出す。
昨日観た映画について考えている。
大げさに救われていた。
あれで良ければ訳はないよな。

また近いうちに

君は僕の腕をピアノにして弾いた。
雨の日は苛立ってすぐに当たった。
気まぐれでケーキを買って帰ってみたり、
報せのひとつもなくいなくなったり。

駐車場に響く一人分の靴音。
車止めから少し離れて止める癖。
とにかく、そんなことを気付かされるくらいに
味気のない暮らしを送っているよ。

こうしている今も、同じだけ君にも時間が流れていて。

Over

just easy folk.
band:kittens(https://soundcloud.com/kittens_jpn)

片岡絹人

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