何もない部屋にきみが帰ってくる
どこかへ行きたいのはどうして
ちゃんときみの言葉で願ったの

意味のない言葉で笑いあったのは
この部屋で同じ空気を吸ったから
夕焼けが綺麗だったから

今夜何を食べるかさえも迷ってしまうときがある
いつも通りはつまらないかな
夏の終わりがからから鳴って
きみの選んだカーテンを揺らした

寂しいな もっと一人になりたいな
隣の部屋のテレビの音はこの上なく静かだ

なにもないよね
歌うことさえ虚しくなる日もあるよね
うまくいったらつまらないだろ
帰りたいと思ううちはまだ帰らないほうがいいのさ

きみは
愛されておいて
悲しい顔がうまい
きみは
愛されてきたから
悲しい顔ができる

だから
戦っておいで 遊んでおいで
ぼくは
きみの話す声がとても好きだよ

ぼくはもうなにも言わない
愛したように愛されるのだからね

愛されておいて

産まれた朝のことを誰もが知らないように
なにかが足りないまま歩いてきたんだ

もう誰もいなくなった長い逃げ道を
ひとり 逃げ遅れたように

あんまり正しいと苦しくなってしまうから
みんな大人になっていったんだね

だれよりも希望を捨てなかった彼は
陸橋の下で暮らしている
ぼくは
傷つけるたび後悔なんて呼んでは
ぼくを許したいだけ

生きていてよかったと思える朝に
死んでもいいと思うのはどうして
消えたくて息さえも苦しい夜に
まだ足りないと思うのはどうして

生きることが答えを延ばし続けることならば
もう少し息が続く気がしたんだ

だれよりも優しかった彼女は
夏でも長袖を着ている
ぼくは
優しくできないことに怯えて
優しい歌を歌いたいとか

もうぼくを見て笑う人はいないのに
足がすくんでしまうのはどうして
もうぼくはこれ以上動けないのに
優しく笑ってくれるのはどうして

産まれた朝のことを誰もが知らないように
なにかが足りないまま歩けてきたのは

ぼくには何もないのだと胸を張って言えないから
あなたのような人がいるから

ぼくもいつかは前を向きたいと願う気持ちを
前向きと呼んでもいいでしょうか

エルモ

コード進行はいつでも一緒
メロディーなんてその場限り
歌を作って歌っているから
シンガーソングライターと呼ばれるのでしょう

音楽のこと何も分かりません
セーハコードが鳴りません
言いたいことを言えなかったから
大人しい子と呼ばれてきました

音楽やる人たくさんいるし
わたしは世界に一人でいいし
わたしはひとり
わたしはひとつじゃない

マイクもギターもいらないロックを歌いたい
お前の心を素手で掴んで揺らしたい
本当のところこんな音源意味がない
音楽なんかくそくらえだけど歌うこと以外に方法がない

笑えるものなら笑ってみろよ
わたしの本気を超える本気で
嫌えるものなら嫌ってみろよ
わたし以上にわたしを嫌ってみろよ

言葉は無力と言われるけれど
本当に言葉は無力でした
それでも言葉を信じたわたしが
歌を歌うならこんな風にするんだ

言いたいことがたくさんあって
歌いたい歌がたくさんあって
くしゃみは五回
わたしの体だ

マイクもギターもいらないロックを歌いたい
下手でも本当のことだけを歌いたい
歌う頃には過去の言葉になっているから
音楽なんか上手くできないけどわたしの全てはここで鳴るんだ

苦しいときほど音楽を聴いた
嬉しいときにも音楽を聴いた
海に行ったら波音を聴いた
音楽の向こうの言葉を聴いていたんだ

マイクもギターもいらないロックを歌いたい
マイクもギターもいらないロックを歌いたい
マイクもギターもいらないロックを歌いたい
音楽なんかくそくらえだけど
音楽なんかくそくらえだけど
わたしはわたしを歌い続けるのだろう

音楽なんかくそくらえ

今日も世界は終わらなかった
息をするので精一杯で
重い身体で扉を開く
春が来るのは少し怖いな

願ったようには叶わなかった
決して平らな道ではなかった
幸せなほど痛くなるのは
何かを捨ててここへ来たから

愛を歌うなんて馬鹿のすることだ
コンビニ寄って帰ろう

待合室の冬の日溜まり
心はちゃんと動いてるのに
愛することが当たり前なら
ぼくらはきっと出会わなかった

伝え続けることでいつかは
なんて到底思えないけど
きみを泣かせた正しさなんて
間違いだって声を嗄らすよ

本当のことに疲れたら
歌や言葉は置いていこうね

願ったようには叶わなかった
それでも確かに満ち足りていた
なのにどうして歌うのだろう
なのにどうして歌うのだろう

どんな歌でも終わってしまう
終わってくから良かったんだね
終わりの見えない人生こそが
どうしようもない駄作なんだね

あとになってから
「幸せだった」なんて言いたくはないのだ

小さな声で歌っていよう
いつかまた壊れそうなきみが
寝返りを打つ
日々は続く
最後の最後まで呼吸は続く

今日も世界は終わらなかった
いつかは息もできなくなるだろう
重い身体で風を掴んで
春が来る まだ少し寒いね

駄作

歌を歌うにも声が出ないんだ
身体さえも僕のものじゃないみたい
僕なら歌うよと過去の僕が笑う
瞼が落ちてくる 命が邪魔をする

覚えていようにも溢れてしまうんだ
僕だけ鞄を持っていないみたい
正しくあることは間違っているかもしれない
すべて言い訳に見えて口を閉ざした

もうどこで間違ったかも
どこで傘を捨てたかも忘れた
忘れたくないこともあるし
消えたくない夜もあるのに

どこへ行くの どうして行くの
答えられなくても進み続けるの？
どこへ行くの どうして行くの
答えのない問いばかり並べて
どこへ行くの どうして行くの
嘘ではないのに後ろめたくて
どこへ行くの どうして行くの
また少し痛みが分からなくなる

歩けない ならばせめて僕は僕を許したい
情けない言葉ばかり口をついてやるせない
忘れないなんて嘘つき 未来なんて見えやしない
過去を思うばかり 保健室に花が咲いた日

間違えて諦めて弁えて五月雨
空さえもまともに見られないまま明日へ
守られてばかりです、今日も降り止まない雨
書き溜めて叫ぶ勇気はない言葉の掃き溜め

どこへ行くの どうして行くの
弱い僕のまま歩いてゆけるの？
どこへ行くの どうして行くの
逃げ道ではないと言い切れるの？
どこへ行くの どうして行くの
僕は僕からは逃げられないのに
どこへ行くの どうして行くの
どこへ行くの どうして行くの

僕が馬鹿みたいじゃないか
結局救いたいんじゃないか
どこにも辿り着きはしないし
答えは初めからないのに
僕を追い越し往く雨に問う
どこへ向かっているんですか
僕の言葉は
僕の行けない場所にも行けますか

どこにいるの どうしているの
探し続ければいつか出会えるの？
どこにいるの どうしているの
君はそもそもどこかにいるの？

どこへ行くの 分からないけど
答えのいらない場所へ行きたい
どうして行くの 分からないけど
正しさだけでは進めない
どこへ行くの どうして行くの
答えられなくても進み続けるの？
どこへ行くの どうして行くの
答えが出なくても問い続けること

五月雨

眠れない夜に猫を抱いて
お前のせいだなんて撫でて
重さの分だけの不自由に酔えば
月明かりは延びる

きみの目を通せば
街の灯りは澄んでいる気がして
僕は目を塞いだまま戸締まりを気にしている

ギターを鳴らすことのない日々の
安寧に静かに喉を鳴らす

きみがいなくなったら
僕はどこへでも行けるんだろうね
だけどきみがいたから
僕はここまで来られたんだよ

薄明 目に映る全てが敵に見えるきみのため
できる限りの優しさで灯りを焚いてやりたいが

どこにも悪いところはないのに胸が痛いんだ
丁寧に研いだ爪がいつも僕を傷つける

ぶざまに歌う僕を笑っているんだろうか
本当に綺麗好きなんだね

きみのことを世界は
病気と呼ぶかもしれない
だけどこの世界は
時に美しく錆び付いてゆく

初めから分かっていたんだ
きみのせいにする僕のせいなんだ
どうか名前の無いうちにどこかへ行ってくれないか

きみと越えた夜を
僕は孤独と呼ぶ他にない
だけど
きみがいた幾千の夜を越えて
僕は一人で歩いていくんだ

ライブハウスを出て朝焼けが眩しい
きみが眠っているうちに
僕は目を開けて汚れた街を行く

永訣の朝

鮮やかな照明の下で
僕は光れない
言葉がひとつ落ちている
拾われることのなかった

満天の星に見飽きて
あなたは降りてきた
綺麗なものではなくて
透き通るものを探している

どこへも行きたくはなかった
誰にも会いたくはなかった
暗い部屋で抱える膝が
ギターに変わっただけのこと

生きる真似でも呼吸はできる
だけど受け取った優しさを数えてしまうことが
何より苦しかったのだ

ついに足が着いた
空の高さを知らぬまま

見ていてください
震える膝を 生きている人間を
あなたにとっては大したことじゃないような

舌が灼けるほどの本当のこと
このステージは世界の底で
どうか見下ろしたまま目を逸らさないで

好きだったことが武器になったとき
僕らは鬼にもなれるんだ
夢を見ることは傷つき続けること

続けること 続けられないこと
どちらも純粋さで
その間の淀みで手探りの心臓

それでも歌うなんてどうしても言えなくて
切り取った夜空に写らなかった六等星

音楽が救えなかったあの人を
羽が生えることのない言葉を
すべて負け惜しみと言うならそれでもいいよ

鮮やかな照明の下で
僕は光れない
あなたが向ける銃口の
意味を問い続けるばかり

僕にとって音楽はただの口実で
生きている姿を見せに来たんだよ

きみは今日も臆病で
街から追われてこの部屋で
嘘に嘘を重ねるように
新しい歌を書き連ね

きみは今日も変な声で
話すことが怖くなって
何を話したかったのか
いつしか分からなくなって

日々消えてゆくことに気付いていて
このままなくなってしまえたならと願うたび
きみを呼ぶ声が聞こえた気がして振り返ってはみても
きみが いなくてもいい世界で

きみは何をやってもだめで
ここにいることがおかしくて
誰も助けてはくれなくて
その全てが自業自得で
夕暮れに雨は降らなくて
きみが嫌い尽くしたきみを
打ちのめす歌がある限り
世界を嫌いになれなかったのだ

きみは今日も嘘つきで
死ぬことばかりを考えて
なんもない風を装って
本当は笑って生きたくて

きみは今日も大馬鹿で
欠かさず水をやり続けて
大切にしていたものが
炎だったと気が付いて

もう何もかもやめてやろうとして
きみがいなくても回る世界に気付いて
あんなにも普通の人になりたかったはずなのに
きみは 当たり前のことに泣いて

不甲斐なさが刃になって
大切な人を貫いて
胸が裂ける痛みの中で
重ねて蓋をした日々は
捨てられない手紙のようで
出来るなら愛してみたくて
言葉よりも大事なものを
見つけたくて言葉を書くのだ

きみよりきみを好きな人はたぶん現れることはなくて
きみよりきみを嫌いな人もたぶん現れることはなくて
外野の声も 帰らぬ人も どうでもいいと言いながら
どうして嬉しかった言葉を忘れられずにいるのかな

きみにしかできないことなんてなくて
いくらでも代わりはいて
だけど きみには言葉があって

きみは何をやってもだめで
ここにいることがおかしくて
誰も助けてはくれなくて
その全てが自業自得で
歌いたいことなんてなくて
ただ心は痛み続けて
終わらせることもできなくて
その全てがきみの言葉で

あの日出せなかった勇気を
声にならなかった鼓動を
未来に怯えていたことを
嫌いな声で叫ぶきみを
夕暮れに雨は降らなくて
きみのためにバスが停まって
生きていることを思い出す
未来は案外普通だったのだ

ラブレター

ひとりだとどこまでも行けてしまうから
君のいた日々をたまに思い出すよ

また引っ越したのかとよく笑われるけれど
変わらない毎日があるだけなんだ

スキップで競走をした
ふりかえらないと決めても
何かを好きな気持ちは
思い出からやってくること

頼りない言葉に安心していたよ
優しさが本当によく似合っていたよ
見破られたときの
恥ずかしいような嬉しいような気持ちで
風に吹かれること 今も続けているよ

離れても同じ空を見てる それはそうだけど
同じ空は二度とないから大切だった

ベランダに揺れるTシャツ 大切なことはいつも窓の外 
生まれた街のことなんて忘れてしまうくらいが丁度いい
世界に二人しかいないような気がした夜の商店街
旅に出ることなんて望んではいなかった

三歩進んで二歩下がる
きっといつでも歩いていた
君が選んだのだから
素敵な街なんだろう

雨の日のことばかり思い出しているよ
それでも笑ってくれる人がいたよ
返さなくても大丈夫
愛された記憶を重荷にしないで
風に吹かれること ちゃんと忘れてゆくこと

いつか君を泣かせた正しさとは
違う正しさで歩いてみせるよ

どこにでもあるような言葉で
どこにいても僕だと分かるような歌を
頼りない言葉で生きてゆけるよ
風に吹かれること いつか遊びにおいでよ

風に吹かれること

サイゼリヤの間違い10個見つからなかった
本当は変わらないものを見つけたかった
季節が過ぎ去って細胞が入れ替わって
去年の服をまた出して袖を通す朝って

どうして少しだけ照れ臭いんだろうね
カーテンの水面 二人乗りのノアの方舟
あの日 一人の夜 縋るように聴いていた歌も
今ではサイズの合わなくなった服のようで

いらなかったのではなく 生かされたということだろう
先は長い 足を伸ばして駅前のイトーヨーカドー
思い描いたようには生きられないことを
偶然と呼んで 有限の永遠

奇跡を延ばして 当たり前の日々のソナチネ
今までの常識も何度だって壊して
また作る 四本の腕で抱きしめるのだ
平凡な窓からぼんやり見上げる空

晴れた日には洗濯 ケの日らしく倹約
正解はなくて間違えてきた過去だけがある
だから自信がないのだと草を避けて歩いてる
あなたを選んでよかったと思う

なにもかも病気のせいにしてしまいたかった
あなたひとり報われたならそれでいいと思った
それでも平等に陽が昇って沈むのは
目に映る世界が美しい理由だ

息が詰まる理由は今も分からないけれど
あなたのいる人混みだと思えば歩けそうだ
呼吸しやすいところで息をしたらいいよ
中野行きを見送って手を繋いだ

幸せな人には音楽なんていらないし
消えたくなった人に音楽なんて届かない
あなたが本当に消えてしまいたくなったとき
僕の声はきっと届かないんだろう

それでもたくさん歩いて出会ってきたよね
くだらないことを歌うために生きる人たちに
どこかへ辿り着いてもどこへも行けなくても
僕たちは自惚れを生きる力と呼ぶんだ

四畳半 ギターの空洞 ライブハウス 両耳
音が鳴るのはいつもからっぽでさびしい場所だった
空洞も存在する意味があるなら
心に空いた穴も愛せるようになるかな

あなたに出会うために生まれた なんて思わない
これは僕が決めたこと 決まっていたことじゃない
命の長さに甘えてふざけていたことばかり
思い出そう 野良猫を数えて買い物帰り

奇跡を延ばして 当たり前の日々のソナチネ
今までの常識も何度だって壊して
また作る 四本の腕で抱きしめるのだ
平凡な窓からぼんやり見上げる空

奇跡を延ばして 当たり前の日々のソナチネ
今までの常識も何度だって壊して
また作る 四本の腕で抱きしめるのだ
平凡な窓からぼんやり見上げる空

平凡な窓から

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底

新妻 望

新妻望